あなたも「ブルーピリオド」でアート思考を磨きませんか?
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読者のみなさん、こんにちは、ホビスぺ管理人のしゅんです!
本日のテーマは「アート思考」です。私がこの思考法を知ったのはある漫画がきっかけでした。というわけで今回は「アート思考」とは何かから、ある漫画がその思考法とどう結びつくのか、「アート思考」を磨く意義について、私なりにご紹介していきたいと思います。
目次
アート思考とは
近年、ビジネス界隈で盛り上がっている「アート思考」。
wikiによる定義は以下の通りです。
アーティストが持つ創造性に着目し、アーティストがアートを生み出す過程で用いる特有の認知的活動を指す言葉
(wiki参照)
また、wikiによると、創造性は先天性ではなく、後天性とされていて、高知工科大学の星田教授(2020)も自身の論文で、「創造性は後天的である」と述べています。その後天性は主に日常の習慣によって発現することが多く、そのプロセスを示したのが下図です。
さらに、アート思考は美大の論文でも取り上げられています。武蔵野美術大学の山本教授は
アート思考は「ものごとに対して、答えを出すのではなく、問いを立てていくための思考法」と言われるが、問いを立てるためには「自分の内側にある興味をもとに、自分のものの見方で 世界を捉えていく」ことが必要である。
との見解を示していました。ここまでの、「アート思考」の説明で、「なんか難しそう」、「芸術には才能が必要なんでしょう?」と思われた方も多いはず。実際、私も芸術はセンスであり才能による部分が大きいと、感じていました。
ある漫画「ブルーピリオド」を読むまでは、です。
前置きが長くなりましたが、今回は2019、2020マンガ大賞「ブルーピリオド」を紐解いて、「アート思考」への理解を深めていきましょう!
ある漫画ブルーピリオドについて
「ブルーピリオド」とは、月刊アフタヌーンで現在も刊行中の山口つばさ先生による、美術をテーマにした漫画です。
月刊アフタヌーンHPの文言を引用すると
世渡り上手な努力型ヤンキーが絵を描く悦びに目覚める! 絵を描かない人にも刺さる熱くて泣ける美大受験物語!
です。
ストーリーについて少し触れると、成績優秀でスクールカーストでも上位の主人公(矢口八虎)は平凡に毎日を過ごしていました。特別やりたいことも見つからず、何気ない日常の淡々さに、退屈さを感じていました。そんな中、たまたま見つけた絵画に目を奪われ、美術に興味を持ち始めていくのですが・・・
といった冒頭になってます。ちなみに1話目(1筆目)は月刊アフタヌーンの公式HPから読めます。https://afternoon.kodansha.co.jp/c/blueperiod.html
ここまでの記事で気になった方は、一度読んでから戻ってくることをおすすめします。
タイトル「ブルーピリオド」が付けられた背景とは
では、山口つばさ先生はどういった意味合いで「ブルーピリオド」と付けたのでしょうか。
タイトル名について考える前に、山口つばさ先生という人物像を考えていきたいと思います。
山口つばさ先生は、過去に東京藝術大学のHPでインタビューを受けていました。
記事が気になる方はこちらから
https://www.geidai.ac.jp/container/column/geidaibito_005
「ブルーピリオド」は東京藝術大学への合格がテーマとなっているのですが、なぜこれがテーマとなっているのか、についてご存知でしょうか?
それは山口先生自身が藝大出身だからなのですね。東京藝術大学は日本一入学することが難しい大学としても知られています。非凡な才を持つ人間しか入学できないことは、東京大学との入試倍率を比べても明らかです。
もちろん、倍率だけで二つの大学のレベルを測れるわけでもなく、片方がもう一方に劣っているという議論をしたいのではありません。注目していただきたいのは、「倍率の差」です。国内最難関の東京大学の約4倍近いなんて、驚きですよね。
そんな驚異的な倍率を乗り越え藝大に合格した山口先生から描かれるストーリーについては後述します!
さて、本題ですが山口先生はどういう意図の下で、「ブルーピリオド(blue period)」と名付けたのでしょうか。そのヒントはピカソにありました。ピカソは19歳の時に親友を無くし、相当なショックを受け、その心象を表す作品が1901年~1904年の期間に表れています。
その期間を「青の時代」と呼ぶようになりました。
なんとも形容しがたい作品ですよね。私のピカソのイメージは天才的な画家であり、その世界観は彼にしか理解できないものでした。そして、その理解できないピカソの世界観に触れて観る人それぞれが、ピカソの絵を解釈することがピカソの最大の魅力である、と感じていたのです。
ところが、「青の時代」では実に人間らしく、感情的なピカソの絵が見て取れました。
親友を失った悲壮感や社会的な孤立感を表していたのです。
では、このピカソの「青の時代」が「ブルーピリオド」とどう関係しているのでしょうか。次章でストーリーを追いながら説明します。
漫画の世界観を超えたリアルなメッセージ性に惹きこまれる
私が、「ブルーピリオド」でアート思考を育める、と考えている大きな理由の一つに「ストーリーを超えたリアルさ」が挙げられます。
1.八虎の境遇
主人公(矢口八虎)には、成績優秀ではありましたが、明確な人生の目標は無く、淡々と日常を過ごしていました。
まず、私は八虎のこの設定に心が掴まれました。高校生の頃の自分って、ただ学校に行って与えられたことをこなすだけの生活であったなと。
また、この設定に共感する方はきっと多いはずです。高校生の頃に夢を追えてる人なんて、M-1グランプリの優勝を志した前途有望な高校生漫才師か、地方から上京を志すシンガーソングライターの卵くらいでしょう(すみません、ボケました)
そう、大概の人は何となくの高校生活を謳歌していたはず。
そんな私たちと重なる八虎が、生まれて初めて絵を描く悦びに目覚め、美術へと心酔していく様は、シンプルにかっこいいです。
2.アート思考につながる「リアルさ」とは
この漫画のリアルで残酷なところは、美術の世界は「やる気」だけではどうにもならない現実を重く突きつけることです。
自身の力量不足やセンスのなさに幾度も打ちひしがれ、挫け、時には逃げてしまうような実に人間らしい側面が、登場人物それぞれの心情を通して「ブルーピリオド」では描かれるのです。
また、嫉妬や憤り、醜さなどの心の機微が描かれていて、これらの感情を抱える他のキャラクター同士が正面から、時に裏からぶつかることで漫画の世界を超えた「リアルさ」が見られます。
これだけで「リアルさ」の説明を終えてしまうと、「おいおい、ブルーピリオドは美術の世界で競争する泥臭い漫画なのか?」と思われてしまうかもしれません。
確かに、この漫画にもそういった面が多少は含めれていることは否定できません。
しかし、私が最も「リアルさ」を感じ、メッセージ性に惹かれるのは
「己との戦い」
をブルーピリオドの世界観から強く感じるからです。
八虎を含めた登場人物たちは、それぞれが美術に対して悩みを抱えています。
八虎は自身の凡庸さについて。友人の鮎川龍二は好きではない日本画を描く環境について、天才的芸術センスを持つライバルの高橋世田介は、自分には絵しかないという心の弱さについてなどです。
このように、登場人物たちは「美術」というコンテンツを通して、自身の弱さと向き合っていきます。また、簡単に乗り越えられない弱さや、挫ける一面が見えるからこそ、ストーリーに深みが出て「リアルさ」を感じられるのです。
まとめ
冒頭でもお話した通り、アート思考とは「自身の内面の興味から世界を捉えて、問いを立て続けることで社会的価値のあるイノベーションを起こす思考」です。
私たち人間は、天才的な才能やセンスを目の当たりにすると、比べてしまって「自分にはできない」と思ってしまいがちです。こんな記事を書く私も、自分の不甲斐なさに気を落とすことが多々あります。
しかし、大事なのは「他人」ではなく「自分自身」と向き合うことなんです。きっとそれは「他人」と向き合うよりも、つらく苦しいはずです。弱さや醜さが全部見えてしまいますから。
でも、そんな中でも「自分自身」と向き合い続けた努力家だけが、天才たちを追い越して、社会的な価値を発揮していくのだと、感じます。
「ブルーピリオド」を読んでからは、芸術をセンスという言葉だけで片付けるのは不適切だと感じていきました。
みなさんも「自分と向き合う」ひとつのきっかけとして「ブルーピリオド」を読み、「アート思考」を育んでみてはいかがでしょうか?
《HobbieSpaceをご利用いただき、ありがとうございました。またのご利用お待ちしております。》
参考文献
1.星田岬(2020)「創造性は、先天的?それとも後天的?」
高知工科大学 経済・マネジメント学群
https://www.kochi-tech.ac.jp/library/ron/pdf/2020/03/15/a1210526.pdf
2.山本薫 長谷川敦士(2020)「アート思考の教育への活用方法研究 内発的動機を育むメソッド試案」
武蔵野美術大学大学院造形構想研究科